情報の編集

昔からの趣味が、直接的ではなくとも、意外と仕事に役立っているのではないかという話。

オイラがビデオ編集を本格的に始めたのは中二の頃。小学生の頃からビデオを撮ってはいたけど、撮りっぱなしで終わっていた。というのも、当時はリニア編集全盛の時代で、ビデオの編集機材がとても高価だったのだ。

ビデオをPCで編集する時代

オイラが中二の頃は、ちょうどパソコンでのビデオ編集がコンシューマ化し始めた頃だった。当時はまだDVDよりもVHSの方が主流だったし、DVD-Rなんてもちろんなかった。ビデオカメラがDVテープに記録して、カメラとパソコンをIEEE1394で繋いで映像を取り込み、編集したらまたDVテープへ書き出す。
今思うと、PCへ動画を取り込むのは結構手間がかかった。HDDの容量もそれほど多くないから、その後、初めてHDDの増設という手段を知った。

編集という手段を得て以来、オイラはビデオを撮りっぱなしじゃなく、編集することを想定して撮るようになった。つまり情報の「構成」を考えるようになったということ。推敲を想定して文章を書くようなものだろうか。撮りっぱなしの頃よりも映像を「素材」として1段階上位の概念で捉えるようになった。抽象化して捉える視点に気づき始めたのだ。


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同じ素材であっても、他の素材との組み合わせ、配置する順序によって映像は全く別の文脈を持ち、ストーリーを語ることができる。
映像のモンタージュによって、言葉と同じように情報を伝達できるということを体感で学ぶことができた気がする。当時は言葉・文章を扱うのが今よりだいぶ不自由だったのもあるけど。
文章を書くのは苦手だったけど、映像編集のおかげで「情報を抽象化し、再構成する」という訓練ができていたのだと思う。たぶん他の人は文章作成を通じて論理的な思考を身につけるところなんだろうけど。

以前読んだ久石譲の著書「感動をつくれますか?」の中で養老孟司氏の発言を引用した、作曲家と絵描きの人の思考の傾向の違いについての話が記憶に残っている。(うろ覚えですが)

画家のように、「1枚の絵を描く」を仕事にしている人達は、論理的に物事を考えられるタイプとそうでないタイプの差が激しいのだという。なぜなら、「絵を描く・鑑賞する」という行為には制約が少ないからだと。
1枚の絵を描く際には2次元空間上のどの位置にも自由に手を入れることができ、順序立てて描いていく必要がない。1枚の絵を鑑賞する時も、何の制約もなく自由な場所へ視線を送ることができる。1枚の絵を描くという行為には制約がほとんど無いため、論理的思考が育ちにくいのだとか。

それに対して、音楽には必ず「時系列」という制約が存在し、曲の始まりと終わりが時間によって規定されている。作曲家は、必ずこの時系列という制約の下で音楽を組み立て、表現する必要があるため、自然と論理的思考が発達している人が多いのだという。

感動をつくれますか? (角川oneテーマ21)

情報を順序立てて組み立てるってのは映像も音楽も似てるんじゃないかと思う。

もう1つ、北野武の「映画は因数分解」という考え方も。


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そのあたりのことは、よく「因数分解」という言葉を使って説明している。

 例えば、Xっていう殺し屋がいるとするじゃない。そいつがA、B、C、Dを殺すシーンがあるとする。
 普通にこれを撮るとすれば、まずXがあらわれて、Aの住んでいるところに行ってダーンとやる。今度はBが歩いているところに近づいて、ダーン。それからC、Dって全部順番どおりに撮るじゃない。
 それを数式にすると、例えばXA+XB+XC+XDの多項式。これだとなんか間延びしちゃう感じで美しくない。XA+XB+XC+XDを因数分解すると、X(A+B+C+D)となるんだけど、これを映画でやるとどうなるか、という話が「映画の因数分解」。
 最初にXがAをすれ違いざまにダーンと撃つ。それから、そのままXが歩いているのを撮る。それでXはフェードアウトする。
 それからは、B、C、Dと撃たれた死体を写すだけでいい。わざわざ全員を殺すところを見せなくても十分なわけ。それを観て、「Aを殺したのはXだとわかったけど、その他のやつらを殺したのは誰なんだ」と思ってしまうバカもいるとは思うけど、そういうやつははなから相手にしていない。
 これを簡単な数式で表すと、X(A+B+C+D)。
 この括弧をどのくらいの大きさで閉じるかというのが腕の見せどころで、そうすれば必然と説明も省けて映画もシャープになる。

間抜けの構造 (新潮新書)

仕事で何らかの説明資料を作る際にも、映像編集の考え方が役になっていると感じる。最近はパワーポイントを使ったプレゼンでスライドに動画を埋め込むこともできるので、なおさら映像編集の考え方が応用できて有難い。

今の職場環境で言うと、仕事上で「情報を構成する」という考え方を学ぶ機会はそれほど多くない。単純に、まとまった情報を発表する機会が年に数回しかないし、まともなフィードバックが返ってくることが少なく、内省しづらいのだ。そういう点で、情報を整理してプレゼンする経験値を積みにくい環境にいる。
ただ、オイラは「撮った素材を振り返る癖」が「作った資料を見返す癖」に繋がって、また「撮った素材を再利用する癖」が「作った資料を再編集する」という行為に繋がっている。機会の少なさを上手く癖で補えているんじゃないかと思う。

さて、ついでにちょっと映像編集の教材をご紹介。
だいぶ前にNHKで「カッティングエッジ 映画編集のすべて」という番組名で放送された海外の番組「Cutting Edge: The Magic of Editing」。

Cutting Edge: The Magic of Editing [DVD] [Import]

富野由悠季による映像制作の指南書も読んでみた。

映像の原則―ビギナーからプロまでのコンテ主義 (キネ旬ムック)映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)


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