映画『大怪獣のあとしまつ』を観た (ネタバレ無し)

映画「大怪獣のあとしまつ」を公開初日に観てきた。何の前情報も無しにピュアな気持ちで鑑賞したくて。

大怪獣のあとしまつ



各所でかなり酷評されているけど、その大きな原因は宣伝がミスリード過ぎることだ。
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2202/04/news162.html

この映画の企画がこのスケールで成立するのに「シン・ゴジラ」の大ヒットが影響していることは容易に想像がつく。「怪獣」という題材にシン・ゴジラ的なヒットを期待する出資者は多そう。
シン・ゴジラ」で怪獣が暴れる絵面以外の面でエンターテインメントに仕立て上げられると証明した功績は大きい。そういう点で、今は怪獣ブームなのだろう。「怪獣」はヒットを狙えるジャンルムービーだ。

しかし、「シン・ゴジラ」的な理屈で練り込まれた作品を期待すると大きく裏切られる。指向が全然違う。理屈を積み上げた世界観ではない。
「怪獣の死体の後始末」というテーマを現実的に突き詰めたポリティカルフィクションではなく、実体は「特撮ものあるある」を下敷きに発想したパロディで、シュールなコント劇なのだ。予告編から想像すると、政治家のむちゃぶりと常軌を逸した大怪獣に現場が四苦八苦するドタバタコメディを想像してしまうけど、そういう方向性でもない。

シン・ゴジラ」の大ヒットのおかげで(?)内容に見合わず予算が集まり過ぎたのではないか? 予算規模が大きくなって豪華キャスト、ガチのスタッフが終結したが故にリアリティレベルのバランスが崩れているように見える。

https://www.youtube.com/watch?v=gVPM__bc7fY

ストーリーはどうやらいつもの三木聡監督テイストらしいので、映像が「大作映画」のスケールになって力を持ち過ぎたためにチグハグになったのだろう。絵面が本気過ぎて、大らかなストーリー展開が思慮の浅いものに見えてしまう。
もっと低予算でチープな絵面の方が魅力を増すタイプの監督だと思う。このストーリーを舞台演劇でやったらかなり印象が変わりそう。

このアンバランスさは松本人志監督作品「大日本人」を彷彿させる。描こうとしている滑稽さをリアルな絵面が殺してしまい、笑えなくしている。


感想

おそらくこの作品が指向するリアリティレベルは「現実の日本に怪獣が現れたら」ではなく、もっと大らかに「ウルトラマンタロウ」や河崎実監督作品ぐらいのもの。
怪獣の死体の処理方法は「ウルトラマンタロウ」の防衛チーム ZATが考えそうな作戦だし、なんとなくZAT隊員達が現場を離れて内閣になったらこんな雰囲気かもしれないと思った。この作品が下敷きとしている「特撮もの」観が70年代なのだろう。

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全編を通して政治と現場が分断されたまま進行するが、主人公のいる現場側キャストが二枚目で、(邦画としては)お金をかけたリアルな絵面も相まって、現場側だけ妙にシリアスでヒロイックになっている。
政治パートのベテランキャスト勢が醸し出す滑稽な雰囲気に対して、現場パートのマジな雰囲気にギャップがあり過ぎて、政治パートを見て「笑い」に向かおうとした観賞のスタンスが現場パートで打ち消されて冷めてしまう。
逆に言うと、この現場パートのキャスト陣を集めれば「こんなにマジな雰囲気が作れるのか」と感心した。

随所に「もしや…」と匂わせる描写が挟まる度に「でもまさかそんなオチはやらないよな」と思っていたら、結局そんなオチだった(笑)
でもこのオチ、多少ボカした表現になっているので、特撮もののパターンを知ってる人でないと分からないんだよな。怪獣ブーム世代か特撮オタクにしか通じない描写。。。

追記:もしやこの映画は「シン・ウルトラマン」公開後に公開する想定で制作されたのかな?「シン・ウルトラマン」で「ウルトラマンあるある」が世間に浸透してる前提の便乗企画だったのかも。「シン・ウルトラマン」は公開が延期され続けたからな。

今まで誰も考えなかった?

この映画の宣伝で「今まで誰も考えなかった」と言っている怪獣の死体処理についてはかなり昔から空想科学読本で取り上げられているし、近年は怪獣の死体処理について描いた作品も結構ある。ということを知っているのはオタクだけですが。

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なので、怪獣の死体処理をメインの題材とするのであれば、当然それらのような視点が入ってくるとオタクが期待してしまうのはしかたがない。
この宣伝方法は「特撮オタクはターゲットではない」という確信犯な気もする。

この映画との正しい接し方

この映画は「豪華なコント」として接した方が楽しめるはずだ。
映画の公式サイトに各界の著名人からのコメントが掲載されているけど、ここにはぜひ河崎実監督も入れてほしかった。たぶん本作に最もテイストが近い特撮作品を多数撮ってる人だぞ。

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コントを披露する場が変化している

テレビの「お笑い」が話芸中心になって、お金のかかるコントが減って久しい。未だにテレビでコントを続けているのは内村光良ぐらいだ。
お笑い番組でコントを披露する場が無くなっても、いわゆる「コント的な笑い」の需要はまだあって、それがドラマや映画の枠で生き続けているのだと思う。福田雄一作品なんかが良い例だ。(賛否あるようですが)

オイラ自身はコントが割と好きだ。だが、コントを楽しむにはある程度の前提が必要なのだとこの映画を観て感じた。
コントのような笑いを作るには、観客がハッキリと分かるアンバランスさが必要なのだ。壮大な音楽に対して安っぽいセット、カッコいい演出に対して主演がお笑い芸人、お約束展開に冷静にツッコミを入れる役、笑い声など。
パロディものの場合、パロディ元の作品の定番展開を知っていること、そのベタな展開に対してツッコミやオチがつかないと「笑い」が成立しない。
また、コントに相応しい尺と、映画1本分として一般的な尺(2時間弱)には乖離があるように思う。

この映画は、ツッコミを入れてくれる人、一緒に笑って見てくれる人がいれば「笑い」として楽しめそう。「ツッコミ可能上映」とか、お笑い芸人がワイプでコメントを入れるとか。

本作に「パシフィック・リム」風の菊地凛子が出演しているのは、ビートたけし監督作品「みんな〜やってるか!」で小林昭二さんが防衛隊の隊長役で出演していたのを思い出すね。

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2022年3月 追記:プロデューサーのインタビュー記事によって再び燃料が投下されたようですね(笑)
https://www.oricon.co.jp/special/58541/

三角関係はギャグ要素じゃなく本気だったのか。この作品を「社会風刺」と言っているのに少し違和感。

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