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東日本大震災の記憶

2011年3月11日の東日本大震災から10年が経った。2月13日(土)の夜の地震もあって、東日本大震災当時のことを色々と思い出した。幸い、当時知り合いで亡くなった人はいなかった。

2011年3月11日(金)

あれは金曜日の午後だった。まだギリギリ学生だった10年前。大学院の卒業間際で、その日は研究室の後片付けをしていた。
確か、先輩・後輩達と大きくて丈夫な木の机を囲んで片づけの相談していた時のこと。地震?と感じてからみるみる揺れが大きくなり、戸惑いながら全員机の下へ潜り込んだ。

これは激しい揺れの中で机の下に潜った状態でiPhoneから投稿したツイート↓



大きな揺れが長く続いた。部屋にあった戸棚が左右に大きく揺さぶられ、中の書籍がガラスの戸にぶつかり激しく音を立てていた。
脳裏に、昔ニュース映像で見た阪神大震災の倒壊した建物の光景が浮かんだ。今いる研究室は校舎の4階。このまま建物が崩れたら、自分は瓦礫の下敷きになってしまうだろうか。それとも、この机が守ってくれるだろうか。「Twitterなんかしている場合じゃない」という感覚と、「今この瞬間が人生最後かもしれない」という感覚が同居していた。



ようやく揺れがおさまり、怖いのでとにかく建物の外へ出ることにした。急いで階段を降りる。壁にヒビが入っていたり、建物がミシミシと軋む音が聞こえた。天井が一部落ちてきていて、校舎のエントランスのガラスが割れていた。
校門の前に少しずつ人が集まり始めた。春休み中なので、人はそれほど多くなかった。どうやら携帯電話はまともに繋がらないらしい。皆戸惑いながらしばらく立ち尽くしていると、地鳴りのような音と共に再び揺れが始まった。

建物の傍にいても危ない気がしたので、先輩・後輩と一緒にとりあえず近くの公園へ避難することに。公園には他にも近所の人達が避難(?)してきていた。その後も何度か余震と地響きを感じた。
iPhoneで調べると、震源は東北らしい。電話は繋がらないが、インターネットは普通に使えた。自分達が無事であること、近所では特に大きな人的被害が出て無いことが徐々に分かってきた。後から聞いたが、教授達は揺れの後もそのまま教授会を続けていたらしい。

はたして自宅は無事だろうか。自宅マンションは築20年以上経っており、耐震構造の基準が今よりも緩いのではないか。
しばらくして学校へ戻り、研究室のある校舎ではなく、当時完成したばかりの新しい校舎でとりあえず待機することに。「この建物は新しくて丈夫だから」と大学の事務の人に勧められたのだ。まだほとんど使われていなかった真新しい建物。特にすることもなく座っていると、その後も何度か揺れを感じた。

電気も水道も普通に使える。インターネットも使える。が、電話だけが繋がらない。
校門の前にある公衆電話からなら繋がると教えてもらい、とりあえず自宅に電話。母が電話に出て、どうやら自宅は無事らしいことが分かった。

徒歩で帰宅

さて、どうやって家へ帰るか。
当時は電車通学だったが、学校最寄りの駅はシャッターが閉められ、駅員に「本日中の再開見込みは無い」と言われてしまった。
研究室に戻り、パソコンで学校から自宅までの徒歩経路を調べた。どうやら2時間半ほど歩けば帰れるらしい。
iPhoneを持っていたので、地図アプリを見ながら歩くことももちろんできるのだが、当時はまだGPSの誤差が大きく、iPhoneのバッテリーの持ちも悪かった。念のため、iPhoneをできるだけ充電し、パソコンからGoogleマップも印刷して持って行くことにした。

もう日が暮れて辺りが暗くなる中、初めて歩く道。大まかな方角さえ間違えなければ、きっと近しい場所へたどり着くだろう。iPhoneの地図アプリやGoogleマップが導き出した最短経路は、街灯がほとんどない住宅地の中を突っ切るコースだった。
道中、電車の運転が再開されない駅に人だかりができ、駅員を怒鳴りつけている光景を目にした。いつもの通勤習慣が崩れて取り乱す気持ちが今は少し分かる。サラリーマンは自分の意思だけでは日常を止められない。生活サイクルも仕事に拘束されているのだ。たとえ非常時であっても、のんびり回り道するほどの余裕はない。仕事に身を捧げなければ生活できない。
当時はまだ学生だったから、そして春休みだったから、日常が崩れてものんびり遠回りする時間と体力があった。

自宅に帰ると、周り近所の景色は特に変わりなく、明かりもついていた。
電気・ガス・水道はいつも通り使えた。棚からフィギュアが落ちたりはしていたが、地震の影響はそれぐらいだった。
現代の建物・インフラは案外丈夫なのだと知った。フィクションで描かれる大地震の建物崩壊のイメージが強過ぎたのかもしれない。

テレビは地震関連のニュース特番ばかりになっていた。
内定先の会社から安否確認のメールが来た。内定者全員へCCされていて、全員のメールアドレスが丸見えだった。担当者も取り乱していたようだ。


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生活の変化

テレビでは、地震発生時の固定カメラ映像、津波の空撮映像、23区の会社員が列をなして徒歩で帰宅している光景、被災者が撮影した動画などが放送されるようになった。
日が経つにつれ、地震関連の報道はだんだんと福島原発の情報が中心となり、民放のテレビCMはACジャパンしか流れなくなってしまった。
何度も来る余震に備え、テレビをつけっぱなしにして緊急地震速報を聴ける状態にしていた。当時はスマホで緊急地震速報を受信する仕組みが整っておらず、自分で「ゆれくるコール」というアプリをインストールする必要があった。

原発が停止したことで電力不足となり、節電が呼びかけられた。ついには東京23区外で計画停電が予告されるようになった。
電車もダイア通りに運行するか分からなくなり、仕事も学校も無い自分はずっと家に籠っていた。積んでいたガレージキットに手を着けて気を紛らわした。

原発から漏れる放射線の話は素人にピンとこない尺度で、「直ちに影響はない」というよく分からない言葉だけが耳に残った。
幸い、時間の自由が利くので、テレビやインターネットで情報を集めることができた。

公の祝い事が自粛されるようになり、卒業式は中止に。当時の「自粛」は文字通り自ら慎むもので、決して政府から要請されたわけではなかったが、世間体に配慮したものではあった。
教授陣が気を利かせてくれて、「学位記を渡す事務手続き」と称してささやかながら学生が集まる機会を用意してくれた。その場に袴姿で訪れる女学生もいた。
(1年後、同級生の呼びかけで後輩達の卒業式に紛れ込んで卒業式を体験できた。)

4月になり、会社員になった。入社式は行われたが、自粛ムードを引きずっており、例年よりも控えめだったらしい。
電車や駅などの公共空間は節電のために電球や蛍光灯が間引かれ、以前より薄暗くなった屋内が見慣れた風景となった。
入社した会社でも電灯が間引かれ、エアコンの設定温度に制限が設けられていた。この会社の以前の姿が自分には想像できなかった。
仕事で新しく人と会うと、震災発生時の体験談が共通の話題だった。後から知ったが、同じ世代だとその時期は卒業旅行中という人も結構いたようだ。

震災後の1ヶ月はちょうど学生から会社員になる生活の変わり目だったので、311による変化なのか正確には分からない。
コロナ禍のここ1年ぐらいの経験を考えると、他の人達には会社員としての日常を継続したまま非日常に順応する苦労があったのだろうと推測できる。報道される情報をどう解釈したらいいのか分からないストレスもあっただろう。

地震当時から1,2か月分のツイートを見返してみた。
https://twitter.com/search?q=from%3ANegativeMind%20until%3A2011-4-30%20since%3A2011-3-11&src=typed_query&f=live

今と違って、当時はTwitter上で色々な人達とやりとりしていたことを思い出した。今ではすっかり独り言。しかも自分の思考はほとんど公開しなくなってしまった。

10年経って生活スタイルは変わったけど、それは学生から会社員になったというだけでライフステージは特に変わっていない。あんまり進歩せずに、ただ老いてしまったような。


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