年末にKindleで購入した書籍「具体と抽象 ―世界が変わって見える知性のしくみ」を読み終わった。
これもところてんさんのツイートに影響されて購入↓
「抽象と具体」を読み始めた
初っ端コレで、大変良い。
「具体=わかりやすい」「抽象=わかりにくい」というのが一般的に認知されているこれらの概念の印象です。
本書の目的は、この「抽象」という言葉に対して正当な評価を与え、「市民権を取り戻す」ことです。https://t.co/Bca5IUxjTN pic.twitter.com/rAVSbXtJDa
— ところてん (@tokoroten) November 25, 2019
最近はTwitterで面白そうな書籍を知ることが多い。
本書は、動物とは違う人間独特の知性を支える頭脳的活動を「具体」と「抽象」という視点から読み解く。間に挟まる一秒さんによるネコの4コママンガもかわいい。
あらかじめ告白しておくと、オイラは日頃から特に仕事で抽象化の恩恵を受けることが多いので、自分自身の主張を強化する言葉を得るために本書を手に取った節はあります。。。
以下は本書の内容とオイラの主張のごちゃまぜ文↓
「考える」ということ
実は、人間が頭を使って「考える」行為とはほとんどの場合「具体と抽象を往復している」ということだ。
抽象度のレベルを階層的に表して「抽象階層」と呼んだりするけど、「考える」で重要なのは同じ階層に止まることなく具体と抽象を往復することだ。具体的なまま、抽象的なまま止まっていては思考が廻らない。
「例え話」は良い頭の体操になりそうだ。
巷では「具体=わかりやすい」「抽象=わかりにくい」と捉えられることが多く、とにかく「抽象」は人気が無い(笑) 仕事だと「あの人は抽象的なことしか言わない」と、無責任という意味合いで使われ、「抽象」と「曖昧」がごっちゃに扱われている。
抽象化の恩恵
抽象化の恩恵を知らずに生きている人は案外多い。変な言い方だが、抽象化の恩恵を具体的に実感する機会が無いまま社会人になってしまうのもしかたのないことだとは思う。
オイラは情報系の大学へ進学してオブジェクト指向とか抽象幾何学を学んでいながら、抽象化の恩恵を実感できたのは結構遅くて、大学院以降だった。大学院で抽象代数学に触れて、考え方の柔軟性や応用範囲の広さを少しずつ実感していった。ただ、それを人に説明しろと言われるとちょっと困る(笑)
どの学問も大抵は具体的事象から理論へ抽象化して体系化されたものだが、特に理学は抽象化へ、工学は具体化(応用)へ向かうことが目標とされる。オイラがもらった学位は理学だったが、当時は全然気にしていなかった。
ソフトウェアの世界だと「抽象化」が役立つ機会は多い。ソフトウェアはある事象を抽象化した「モデル」を扱うことが多いからだ。概念を抽象化して再利用可能な構造にする思想が、言語仕様やデザインパターンという形で実現されており、手軽にその恩恵を受けられる。ライブラリやAPIって抽象化の恩恵そのものですからね。
仕事の性質と適性
会社組織での仕事は大きく見ると「抽象から具体」への変換作業と言える。
仕事の始まり「企画段階」は抽象度の高い「概要」レベルだった計画が、詳細レベルの計画になり、工程を経るごとにだんだんと具体化していき、最終アウトプットとなる。
仕事の始まりに近い上流の方が抽象度と自由度が高く、下流へ行くほど具体的で自由度は低くなる。
(ここでは上流・下流という表現の良し悪しはいったん無視します)
下流の仕事は多くの人が関わった方がレベルが上がって速く・安くなるが、上流の仕事は関わる人数に反比例して質が下がってしまう。
「下流の仕事のやり方」は多数決による意思決定や人海戦術でこなす価値観の働き方だ。
逆に、上流の仕事は関わる人が増えるほど焦点がぼやけて質が下がっていく。下流・具体の世界では「量」が重視されるのに対し、上流・抽象の世界は「質」が重視される。
オイラが仕事でモヤモヤすることが多いのはこの辺り。
上流の仕事を担当している人が「下流の仕事のやり方」を選んでしまう例が多いのだ。大抵の人はキャリアのスタート時に「下流の仕事」をすることになるが、その後「上流の仕事」に移ってからも「下流の仕事のやり方」を続けてしまう人達が沢山いる。仕事を量で測る癖が抜けず、質で測ることができない。
実際に問題になるのは「段取り」の面。
上流の抽象度・自由度の高い仕事が得意か、下流の具体的で自由度の低い仕事が得意か、という適性の話なのかもしれない。
仕事を手順でしか説明できず、体系を伝えることができずにスケールしない例をいくつも見た。
こだわり
仕事で役立つ抽象化は、目的に対して重要なこと以外を枝葉として切り捨てること。しかし、その人固有の「こだわり」は抽象化と相性が悪い。
「こだわり」は目的と無関係に抱いてしまうもので、なかなかコントロールができない。「こだわり」が邪魔をしてしまう。
また、人間は自分自身を抽象化・単純化されることに抵抗がある。「自分自身は複雑な存在である」と信じたいのだ。自己紹介の胆は、自分自身のある側面を強調してそれ以外の情報をそぎ落とすことだが、上手くできる人は少ない。
機械学習は抽象化
さて、昨今流行りの機械学習は、抽象化を機械にやらせているということだ。大量の具体的なデータから共通する要素を特徴として抽出する。
畳み込みニューラルネットワークの各層はそのまま抽象階層に相当し、物体認識の仕組みを集合論で説明できる。具体的な画素勾配の集合から層を経るごとに抽象度を上げ、物体という概念へ到達する。
「もっと具体的に」
思い返してみると、今まで何か説明したり文章を書く際には「もっと具体的に」と要求されることが多かった。その際たるものが就活の応募書類。「もっと具体的に」という要求の抽象度の高さは何なんだ(笑)
「もっと具体的に」という詰問に対して実際にやるべきなのは、具体的な情報を並べることではなく、抽象化の切り口を変えることだろう。ここで重要なのは相手のメンタルモデルに沿って抽象化し直すこと。
見慣れたキーワードだけで物事を捉える人達にとって、抽象化でそれらが欠落すると読む手がかりを失ってしまう。相手の見慣れた言葉を残しながら情報をまとめ直す必要がある。
定量的であることと具体的であることはイコールではない。抽象的であっても定量的であれば良いのだ。
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